子宮頸がん、肛門がんの予防にも効果あり!
「梅毒患者の増加」についての記事で解説をしてくれた岩室紳也先生。HIV/エイズの診療を90年代から続ける一方で、エイズ予防と性教育の学校講演を年間100回ほど行う“コンドームの達人”としても知られている。その岩室先生に、日本のコンドーム教育や、今の若い世代のコンドームに対する意識について話を聞いた。
「私がHIVの問題に関わりはじめた90年代には、HIVがセックスでも感染することも、その感染予防にコンドームが有効なことも分かっていました。ただ、『コンドームでHIVの感染予防を』ということは、保健の教科書にもほとんど載っていなかったし、『学校教育でコンドームについて教えるなんてとんでもない!』と言う人がいる時代でした。そのような時期から、私は各メーカーさんとも協力して、コンドームを付けることの大切さを広めていたんです。」
現在は、コンドームに性感染症予防の効果があることはある程度認知されているだろう。
「コンドームの使用は、女性の子宮頸がんの予防にもなることも知ってほしいですね。子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)は、性交渉により男性のペニスから子宮頸部に感染します。コンドームで完全に防ぐことはできませんが、感染の危険性を少なくできることができるんです。また、MSM(男性間性交渉者)を含め、アナルセックスをする方の場合は、コンドームの使用が肛門がんの予防にもなります。」
ただ一方で、コンドームの持つ効果を知識としては知っていても、セックスの気持ちよさを重視してつけない人もいるだろう。そのため、快楽ばかりを追い求めてコンドームを使わなかったり、コンドームを使わないで不特定多数の相手とセックスを続けていたりすると、やはり性感染症のリスクは高くなってしまう。
「HIV Futures Japan プロジェクトが行ったHIV陽性者900人ほどへのアンケート(http://survey.futures-japan.jp/result/booklet1.php )では、ドラッグの使用経験者が約75%にものぼりました。日本の人口全体では経験者は1%未満ですから、これは非常に高い数字です。性的な興奮を高めたり、肛門括約筋を弛緩させたりする効果を目的に使用しているのでしょうが、そのような時のセックスでコンドームを使うとは思えないですよね。」
「コンドームを使う気になれない」「リスクがあるのは承知で不特定多数の相手とセックスをしてしまう」という人は、自らの心と向き合い、自らの習慣や考え方を自分一人で改めようとはせずに友達に話したり、必要であれば岩室先生のような医師やメンタルヘルスの専門家などに相談したりするのもいいだろう。
「私の外来にも『パートナーを探すことが目的で東京に出てきました』という人が来ますし、セックスを通して『自分が求められている感覚がほしい』『相手を支配している感覚を味わいたい』みたいな理由でセックスをしてしまっている人もいます。その結果、自分が性感染症になってしまったり、それを人に感染させてしまうのはやはりもったいないですよね。」
コンドームを付けたがらない男性に「女性が喜ぶマニュアル」として教えるか「カッコいい」という褒め言葉を利用
では、コンドーム使用の習慣を多くの人に身につけてもらうためには一体どうすればいいのだろうか。岩室先生は2つの方法を提案する。
「最近の若い世代の中には、きちんとマニュアルを用意すれば、それを理解して実行してくれる人も多いです。そのような人には、女性に喜んでもらうための『セックスのHow to』の一部として、コンドームを使うことの大切さを教えてあげるのがいいでしょう。コンビニでコンドームを買ってから彼女の家に行く→お風呂を掃除して彼女を先に入れてあげる→その間にベッドメイクをして枕元にコンドームを用意しておく……みたいな手順ですね。実際、男性がコンドームを買って準備してくれるというのは、女性にとっても嬉しいことでしょうし、自分が相手から大事にされているという実感も湧くでしょう。」
一方で、女性の側からそのようなマニュアルの実行を要求されたら、機嫌が悪くなる男性もいるだろう。そのような人には別の方法がオススメだそうだ。
「男性というのはプライドの生きもので、正論で責められると拒否したくなる人も多いです。そのようなタイプの人には、『コンドームを付ける男ってカッコいいよね』ということを暗に伝えてあげること。男にとって、カッコいいと褒められることは本能的に嬉しいことなので、そこをくすぐってあげれば自分から行動を起こしてくれます。ちなみに私が診察で接している3、4歳の男の子も、『ちんちんカッコ良くなったね!』と伝えると、実に誇らしげな顔をしますからね(笑)」
なお、岩室先生が自ら「コンドームの正しいつけ方」を指南する動画がYouTubeで公開されている。使用経験のある人たちも、自分の方法が間違っていないかどうか、チェックする意味でも一度見てみてほしい。
コンドームの正しいつけ方
https://www.youtube.com/watch?v=mHHRgFfGnzA
岩室紳也先生
1955年、京都府生まれ。ヘルスプロモーション推進センター代表。HIV/エイズの診療を90年代から続けており、現在も厚木市立病院泌尿器科で診療を行っている。一方で自らを「コンドームの達人」と称し、中学校や高校などでエイズ予防と性教育の学校講演を年間100回ほど行っている。